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前橋地方裁判所 昭和22年(ワ)70号 判決

原告 松尾正直

被告 白石清雄

一、主  文

被告は原告に対し別紙目録<省略>記載の土地につき代位弁済に因る所有権移轉登記手続をなすべし。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求めると申立て、その請求の原因として、「訴外関口文三郎、同中野友作、同布施禎章、同青山信十郎の四名は右中野友作のため右四名共同振出の約束手形を被告に差入れ、連帶して被告より昭和十八年二月五日及び同年三月五日の二回に合計金三万七千円を借用した。原告は右関口文三郎が右借用金につき連帶債務者の関係に在るを気の毒に思い、被告に対し昭和十八年七月末日右借用金の計算を求めたところ、被告より同月三十一日現在に於て元利合計が金五万八千八百四円五十銭であると告げられたので、原告は同日右関口文三郎外三名の債務につき保証をなし、保証債務の履行方法として金額五万八千八百四円五十銭、振出地支拂地いずれも東京市、満期三カ月後なる約束手形一通を被告宛に振出した。然るにその後聞くところによると、被告はそれ以前に右関口文三郎から同人所有の別紙目録記載の山林四筆を含む合計百十一筆の土地を右債権の担保として所有権の讓渡を受け、昭和十九年二月中被告のために所有権移轉登記をし、その後本件土地を除いた他の土地は既に他に処分して右債権の一部弁済に充当した。原告は関口の窮境を幾分でも救いたく関口をして被告に対し債権の残額は幾何かと尋ねしめたけれども被告は故意に之を明確にしないのである。併し聞くところによると昭和十八年九月十六日現在に於て元利合計は金六万八千二百二十円五十八銭であり、之に対する同年十月一日以降年五分の損害金が被告の主張する債権額であるとのことであるから、之を基礎にして計算すると、右金額に対する昭和十八年十月一日以降昭和十九年三月十六日まで年五分の損害金は金千五百六十円六十六銭であり、之を右金額に加算すると合計金六万九千七百八十一円二十四銭となり、担保土地の大部分を処分して昭和十九年三月十六日弁済に充当した金額は二万六千七百六十八円七十六銭であるから之を控除すると残額金四万三千十二円四十八銭となる。之に対する昭和十九年三月十七日以降昭和二十二年五月三十一日まで年五分の損害金は金六千九百二十九円六十七銭であるから、昭和二十二年五月三十一日現在の元利合計は金四万九千九百四十二円十五銭である。次に被告が右債権の取立その他に関連して支出したことにより債務者等に対して償還を求め得る金額は(一)仮登記登録税等金七十円八十銭(内訳(イ)四十四円四十銭仮登記登録税、(ロ)七円二十銭右副本書記料、(ハ)二円住所更正登記料、(ニ)七円二十銭同右書記料三十六枚、(ホ)二円無盡会社の合併移轉登記料、(ヘ)八円同右書記料)、(二)債権取立のため東京出張費用金五百円(内訳東京往復二十回として、(イ)汽車賃往復一回四円計八十円、(ロ)宿泊料一回八円計百六十円、(ハ)日当一日十円計二百円、(ニ)弁当代一日一円五十銭計六十円)、(三)土地所有権取得により昭和十九年度以降昭和二十一年度まで賦課せられた諸税金千四百九十七円十銭であつて、右(一)乃至(三)の金額を前記昭和二十二年五月三十一日現在の元利合計額に加算すると金五万二千十円五銭となる。乃ち同年六月上旬に於て金六万円を超えないことは明らかなので、原告はその頃弁済のため現実に金六万円を被告に提供したが被告は受領を拒んだから同月十一日弁済のため右金員を供託し、かくて本件債権は消滅した。原告は保証人であり弁済をするにつき正当の利益を有する者であるから、右弁済供託によつて当然債権者たる被告に代位したのであつて、原告が関口文三郎に対し求償をなし得べき範囲内に於て、被告が有つていた前記讓渡担保の権利を行い得るのである。仍て別紙目録記載の土地につき原告のため所有権移轉登記手続をなすことを求めるため本訴を提起したのである。」と陳述し、被告の主張に対し、「(1) 、(4) の内原告主張の各金額を超ゆる部分及び(2) 、(3) 、(6) 乃至(10)記載の各債権の成立及び数額並びに右(2) 、(3) 、(6) 、乃至(10)の債権が本件讓渡担保の被担保債権の範囲に属することは否認する。関口文三郎外三名の連帶借用人の内部関係に於て中野友作以外の三名が負担部分を有しないことは認める。」と述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め答弁として、「昭和二十二年六月上旬に於ける債権額が金六万円を超えないということ、弁済の提供があり被告が受領を拒んだこと及び原告が関口文三郎に対し求償権を有することは否認する。供託の事実は不知である。被告が本件債権の取立その他に関連して支出したことにより債務者等に対して償還を求め得る金額の詳細は後記の通りである。その余の原告主張事実は認める。本件貸金の昭和二十二年五月三十一日現在の元利合計は原告主張の通り金四万九千九百十二円十五銭であるが、右貸金の取立費用、担保権実行の費用及び関口文三郎の債務不履行等による損害金は左の通りである。

(1)  金三千七百円 債権取立のため東京出張三十七回分の費用及び損害金(原告は(二)に於て金五百円と主張する)。

(2)  金六百円 関口文三郎等の詐欺被疑事件につき警視廳に出頭六回分の費用及び損害金。

(3)  金千四百八十円 仮登記仮処分に関連する費用及び代理人手数料。

(4)  金二千三百円 所有権取得登記に関する登録税及び書記料並びに出張費用(原告は(一)に於て金七十円八十銭と主張する)。

(5)  金千四百九十七円十銭 土地所有権取得により賦課せられた諸税金(原告主張の(三)記載の金額と符合する)。

(6)  金三千三百円 関口文三郎が不当に提起した債権不存在確認事件(前橋地方裁判所昭和十八年(ワ)第一一五号事件)の代理人手数料及び費用。

(7)  金四千円 関口文三郎が不当に提起した不動産登記抹消事件(同裁判所昭和十九年(ワ)第一八号事件)の代理人手数料及び費用。

(8)  金千五百円 関口文三郎が不当に提起した仮処分事件(同裁判所昭和十九年(ヨ)第九号事件)に対する異議申立事件の代理人手数料及び費用。

(9)  金二万円 関口文三郎が被告のした担保権実行を文書僞造行使詐欺として告訴したことによる(告訴は不起訴処分となつた)慰藉料。

(10)  金十四万七百三十三円 関口文三郎が前橋地方裁判所昭和十九年(ヨ)第九号事件に於て被告が担保権を有する本件山林を不当に仮処分したことにより被告が被つた損害。即ち昭和二十年終戰後は山林の價格昂騰しそれまで被告の債権を満足させる金額を以てしては賣買できなかつたものが容易に之を処分して債権の満足を得られるような情勢になつた。從て関口の仮処分執行がなかつたなら被告は担保権の実行により債権総額及び之に附随する損害の全部の弁済を受けることができた。弁済を受くれば被告の営業である文具教具の仕入資金として使用し之を販賣してその資金を回轉すれば一回轉毎に二割五分の利益を得ることは当時の取引状態として確実であつた。昭和二十年十一月担保山林を処分して債権全額の弁済を受け内金五万円を営業資金に投入すれば爾來昭和二十二年五月迄には少くも六回轉できる。一回轉毎に二割五分の利益を得れば昭和二十二年五月末には金十九万七百三十三円となる。從つて利益は金十四万七百三十三円となる。

被告の関口文三郎に対する債権は右の通りであつて、右(1) 乃至(10)の金額を前記元利合計額に加算すると昭和二十二年五月末日現在の債権総額は金二十二万八千五百十二円二十五銭である。而して右(3) 、(7) 、(8) の債権は担保物保存の費用、(6) の債権は債権保存の費用、(10)の債権は債務不履行による損害金、(2) 、(9) の債権は基本債権及び担保権の行使に関連して生じた損害金であり、(1) 、(4) 、(5) の取立費用と共にいずれも被告が関口から取得した讓渡担保の被担保債権の範囲に属するものであるから、原告は被告に対し右債権の凡てを弁済しない限り被告の有する担保物件につき被告に代位することができない。仮に原告が供託をしたとしても、その供託金額は被告の債権金額に充たないばかりでなく債務の本旨に從つた現実の提供がなかつたのであるから弁済の効力を生じない。又甲第六号証の供託書には供託物受取の條件として被告が昭和十八年七月三十一日原告振出の金額五万八千八百四円五十銭、受取人被告なる約束手形一通を原告に引渡したることの証明書を提出することを要するとあるが、右供託は借用金の保証債務に関するものであつて、手形債務に関するものでないから、供託物受取に右の如き條件を附することは右供託を無効ならしめるものである。又関口文三郎、布施禎章、青山信十郎は中野友作のため右四名が連帶して金員を借用したのであるから、右四名の内部関係に於ては中野友作以外の三名は負担部分がない。從つて原告が保証債務を履行したとしても、求償権は全部の負担部分を有する中野友作に対してのみ行い得べく負担部分なき関口文三郎に対して行い得ないから、原告は被告が関口から取得した担保物件について代位権がない。」と陳述した。<立証省略>

三、理  由

訴外関口文三郎、同中野友作、同布施禎章、同青山信十郎の四名は右中野友作のため右四名共同振出の約束手形を被告に差入れ、連帶して被告より昭和十八年二月五日及び同年三月五日の二回に合計金三万七千円を借用し、原告は同年七月三十一日同日現在に於ける元利合計金五万八千八百四円五十銭の右債務につき関口文三郎外三名のために保証をなし、保証債務の履行方法として原告主張の如き約束手形一通を振出し被告に交付したこと及び是より先被告は関口文三郎から同人所有の別紙目録記載の山林四筆を含む合計百十一筆の土地を右債権の担保として所有権の讓渡を受け、昭和十九年二月中被告のために所有権移轉登記をし、その後本件土地を除いた他の土地を処分して右債権の一部弁済に充当し、結局昭和二十二年五月三十一日現在の元利合計は金四万九千九百四十二円十五銭であることは当事者間に爭がない。原告は、被告が右債権の取立その他に関連して支出した費用にして債務者等に償還を求め得る金額として(一)乃至(三)の各金額合計金二千六十七円九十銭を掲げる。被告は右債権の取立費用、担保権実行の費用及び関口文三郎の債務不履行等による損害金として(1) 乃至(10)の各金額合計金十七万九千百十円十銭を掲げ、これらの債権はいずれも被告が関口から取得した讓渡担保の被担保債権の範囲に属すると主張する。成立に爭なき乙第四号証及び被告本人訊問の結果によれば、昭和十八年九月頃原告は詐欺の嫌疑を受けて警視廳に留置せられ、その後関口文三郎もその事件に関連して警視廳に留置せられ、被告は被害者として警視廳に召喚せられて取調を受けた事実を認め得るけれども、被告が右の如き事情により警視廳え出頭するにつき支出した費用又は之によつて被つた損害(被告主張の(2) の金額)が本件債権又は担保権の行使に関連ありということは右各証拠によつては未だ之を認め得ない。之と原告主張の(一)乃至(三)の各出捐とを外にして、被告がその主張の如き出捐をなし又は損害を被つたことは被告本人訊問の結果によつては未だ之を認めるに足りない。從つて昭和二十二年五月三十一日現在の債権の額は前記元利合計金四万九千九百四十二円十五銭と原告主張の(一)乃至(三)の各金額とを加算した金額即ち金五万二千十円五銭であると云わねばならぬ。成立に爭なき甲第六号証乙第五号証の一、二及び証人青山信十郎の証言によれば、訴外青山信十郎は原告を代理して昭和二十二年五月三十一日被告に対し弁済のため金六万円を現実に提供したが被告は受領を拒んだので、原告は同年六月十一日弁済のため金六万円を供託した事実を認め得る。被告は、「右供託書には供託物受取の條件として被告が昭和十八年七月三十一日原告振出の金額五万八千八百四円五十銭、受取人被告なる約束手形一通を原告に引渡したることの証明書を提出することを要するとあるが、右供託は借用金の保証債務に関するものであつて、手形債務に関するものでないから、供託物受取に右の如き條件を附することは右供託を無効ならしめるものである。」と主張し、供託書に被告主張の如き記載あることは原告の爭わないところであり又右供託が借用金の保証債務の履行のためになされたものであることは被告の主張する通りであるけれども、債務の履行方法として授受せられた手形がある場合には、手形金の支拂が手形と引換になされることに準じ、基本債務の履行は当該手形と引換になさるべきものと解するから、供託書に右の如き記載があつても供託を無効ならしめることにはならない。然らば本件債権は右供託によつて消滅し、原告は関口文三郎に対し求償権を取得した(関口文三郎外三名の連帶借用人の内部関係に於て関口文三郎が負担部分を有しないことは原告が同人に対し求償権を取得することを妨げるものではない。)のであるから、被告が関口から取得した担保物件につき当然被告に代位する。仍て別紙目録記載の土地につき自己のために所有権移轉登記手続を求める原告の請求を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決した。

(裁判官 奥田嘉治 黒沢信夫 中島武雄)

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